瞳に映るクリスマス

ピンポ〜ン♪
チャイムの鳴る音に岩城は顔を上げた。
時計の針は8時を示している。
・・・誰だ?・・・
岩城はソファから立ち上がる。
香藤なら鍵を持っているのでインターフォンを鳴らすことはない。
・・・取材か?!・・・
飛び込みのインタビューでもとりに来たのだろうか・・・・でも最近は特に何も大きな出来事は起こっておらず極めて平穏に時が流れている。

ピンポ〜ン♪
また鳴り響くその音に眉を顰めながら、岩城は受話器を取った。
「はい。」
『あ、岩城さ〜ん!』
「か、香藤か?」
聞き慣れた声にほっとする。
『うん。ちょっと開けて! 手が塞がっちゃって鍵が出せない〜。』
「はあ?」
『いいから、早く! 重い・・・』
・・・・重い・・・?・・・・何だって言うんだ一体?
『岩城さ〜ん!』
「分かった、分かったから叫ぶな!」
ドアの近くまで来ると岩城は怒鳴った。
・・・ったく・・・
岩城がノブに手をかけてドアを開けると・・・・・・。


「わっ!」
ドアを開けた瞬間、真っ赤なものが飛び込んできた。
「な、なんだ・・・・これは。」
「じゃ〜ん! メリークリスマス!」
その真っ赤な大きな塊の後ろから香藤の声がした。
「・・・・・」
あまりのことに岩城は言葉を失う。
思わず後ずさって道を開けると、ひとりでに閉まったドアの前に大きなポインセチアを抱えた香藤がいた。
ひょいと鉢の後ろから顔を出す。
「か、香藤・・・・これは・・・」
「えへへ、驚いた? これね〜クリスマス用に頼んでいたんだ! やっと今日届いたんだよ! 綺麗でしょう?」
「・・・・・」
「岩城さん?」
ぼんやりとしている岩城に香籐が気づく。
「・・・あ? ああ、そうだな。さ、早く上がれ! いつまでもそんな所にいないで。」
「うん。」
すたすたと部屋に戻る岩城の後ろ姿を見て、香藤は鉢を玄関脇におろす。
・・・あんまり好きじゃないのかな、これ・・・
「せめてクリスマスの雰囲気出したかったんだけどなあ〜。」
明後日のイブの日も仕事が入って一緒に過ごせないから・・・と早めに買ってきたものだったのだが。岩城の態度が素っ気ない。
ま、いいか・・・・そう呟いて香藤も岩城の後に続いた。




「あっ・・・・」
湯上がりにバスローブに着替えた香藤はリビングに入りかけた時、足を止めた。
リビングの一角にさっき玄関に置いたはずのあのポインセチアが置かれていた。そしてそれに顔を寄せるように岩城が膝をついていた。
・・・・岩城さん・・・・?
香藤はその光景に思わず息をのむ。
真っ赤に染まったポインセチアと岩城の横顔・・・・それがあまりにも綺麗で・・・・。
魅入られたように立ちつくした・・・・。


やがて香藤の気配に気づいて岩城が振り向く。
「なんだ、そんなとこで。風邪引くぞ!」
「・・・・・」
「・・・香藤? どうした?」
動こうとしない香籐に岩城が近づく。
「香藤?」
香藤の目の前に立つ。
「・・・・・綺麗だ。」
「あ? ああ綺麗だな・・・・玄関じゃ寒いだろう、ここの方が見栄えもするし・・・」
その言葉にくすりと笑った。
「岩城さんったら・・・・あれだけの話じゃないよ。岩城さんが赤にとても映えていたんで見とれちゃった。」
「なっ・・・」
岩城は赤くなる。
「とってもとっても綺麗だ・・・・。」
「ば、馬鹿・・・・風呂でのぼせたんじゃないのか。ほら、頭、まだ濡れてるじゃないか!」
真正面から言われて岩城が、照れ隠しに香藤が頭からかけていたタオルで髪をごしごし拭きだした。
「痛っ、痛いよ〜岩城さん〜。」
ぎゃあぎゃあ叫ぶ香藤を押さえ込む。
「子供じゃあるまいし、ちゃんと拭いてこい!」
「もう・・・・岩城さんってば、何照れてんの?」
タオルの下から香藤が声を出す。
「う、うるさい! 早く飯にするぞ!」
真っ赤になった顔を見られないように岩城がキッチンに向かった。

「もう素直じゃないんだから。」
でも・・・・思った以上に気に入って貰えたのかな・・・・と香藤はポインセチアを見つめる。これを見ていた岩城はとても大事なものを見るような目をしていた。
それがとても綺麗で、つい見つめちゃったのだけど・・・。
・・・・良かった、きっと喜んでくれてるんだね・・・・
香藤はにんまりする。
岩城が喜んでくれればそれで良いのだ。


「香藤!」
「今行く。」
返事をして食卓へ向かった。
シチューの香りに包まれたテーブルでグラスを合わせる。
一足早めのふたりだけのクリスマス。
それは幸せの味で包まれていた。






そして・・・・
ポインセチアを持った香藤に岩城が見とれたことは秘密。
それはポインセチアだけが知っていること。
お互いがお互いの瞳に愛しい人の姿を映して・・・・・

メリークリスマス!
ポインセチアの色にふたりが染まる夜・・・・。

日生 舞