Valentine's Day

「じゃーん!」

誰も聞く者もいないキッチンで香藤は声をあげた。

「う〜ん、良い香りv 俺って天才じゃん!」

思ったよりも上手に出来たことに思わず顔がほころぶ。

小さなチョコレートケーキ。

作ろうと思い立ったのは2,3日前・・・甘いものをあまり多くは好まないだろうと小さな形にすることに決めた。

それもシンプルに、味も甘さ抑えめで。

カードは勿論添えるつもりだけど・・・

後は手渡しでの言葉と、勿論愛情いっぱいの夜のオプション付きだ。

こんなイベントの日は本来こういうのに疎い岩城も香藤の意を汲んで甘やかしてくれることが最近増えた。

明日の仕事具合にもよるけれど、きっと素敵な夜になるはず。

自然と顔がほころぶのも仕方がないというものだ。

それに岩城の戻りは8時ぐらいになるはずだ。

夕食は家でと聞いているので、今から少し休んで準備しても充分間に合う。

香藤は3時前をさす時計を見ながら、ケーキ作りに使ったものを片づけ始めた。


鼻歌交じり、良い気分で食器を洗っていると玄関のチャイムが鳴った。

こんな昼間に誰だ?

香藤はインターフォンに問いかけると帰ってきた声は悪友の声だった。

「小野塚宅配便でーーす。お届け物でーーす」

「小野塚?!」

思わず声を上げる。何の約束もしてなかったはずだ。

「はあ? 何? 何の用?」

「おまえね、それせっかくおまえの荷物を持ってきてあげた友達に対しての口のきき方じゃないよ? 早く開けろよ」

「分かった、分かった」

何の荷物だ?・・・・訳が分からないままに香藤は玄関に向かっていった。




「ほい、これ!」

玄関で事を済まそうとしたのに茶の一杯でも出せと上がり込まれてしまった。

リビングに通され、ソファに座った小野塚は大きな紙袋を差し出した。

「何だ?」

それを受け取りながら中を見ると・・・・・カラフルなチョコの包みがたくさん入っていた。

「チョコレート・・・・」

「そう、スタッフからのと同業者のも入っている。おまえになかなか会えないから渡してくれって」

そう言いながらかけてきたサングラスをとる。

小野塚の話だと、たまたまヘアスタイルの子が香藤に会う機会があるかと聞いて来て・・・手渡されたのがきっかけで、次から次へと集まったという。

「愛されてるね〜おまえ」

「へえ・・・・」

そう言われながら香藤は中身を見つめる。

仕事が前ほど多くない今の状態になって、それなりの時間が経っているのに、今でもこんなに気にかけてくれる人がいるのか・・・と照れくさいような妙な気持ちになった。

「ま、数は俺の方が断然多いけどね!」

当然でしょ、と足を組み替える小野塚に、はいはい・・・と返事をしてキッチンへ向かった。

「・・・美味しいのよろしく・・・って、何?この甘い匂い・・・・ケーキ?」

「ああ、さっき焼いていたからな」

「おまえが?」

「そうだよ」

「・・・・・・」

料理の腕が良いとは聞いていたが・・・菓子作りもするのか・・・正直ちょっと驚く。

え?じゃあ・・・もしかして・・・・・

「何? バレンタインデー用のケーキでも作ってたわけ?」

チョコ風味とか? LOVEとか書いているとか?

「勿論でしょ、岩城さんへの愛だよ愛!」

小野塚の脳内の疑問も知らずに香藤は答える。

「そうですか・・・・」

香藤からカップを受け取りながら小野塚は短く答えた。


なんかいつも思うけど、これほどまでに第3者に惚気るほどに惚れるってどんな感じ?

不思議でたまらない。

天地がひっくり返っても、そんなことは出来そうにない小野塚はそんな風に思っていた。

別に前からこまめに料理をしていた訳じゃない、ましてお菓子作りなんて・・・・

でも、岩城さんの健康管理の為ということで、かなりの物を手作りしていると聞く。

・・・・こんなに変わるなんてね・・・・

今更ながらに驚かされる。

「なあ、そのケーキ余ってないの?」

「はあ? なんでおまえにやらないといけないんだよ」

「えーーいいじゃん、おまえのチョコ運んだだぜ、お駄賃としては安いだろうよ」

「バーカ、材料も厳選してあるんだぞ!そこら辺で売っている物は違うんだよ」

どれもこれも愛だよ、愛!

自分に酔いしれるように佇む香藤に小野塚は言葉をなくす。

・・・・ありえない、俺には絶対ありえない・・・・

でも・・・だからこそ・・・こいつの持つ空気が好きなのかも知れない。

何も構えずに側に立てる・・・それが心地良いのかも知れない。

「ま、そんじゃ茶も貰ったし・・・退散しましょうかね」

ごちそうさん、とカップを置いて「またな」と声をかけ玄関に向かう。



「小野塚」

靴を履いていると名前を呼ばれた。

「ん?」

「ほら、やる。少し多めに作ったし・・・おまえも甘いの苦手だろうけどそこら辺は大丈夫だと思うし」

小さな袋に2個入ったカップケーキが目の前にあった。

別に・・・本当に欲しいと思った訳じゃない。

何となくからかってみただけなのに・・・・。

「岩城さんのはこれからもう少し手を入れるけどな」

これはこれで上手いと思う、そう言う香藤を見て、なんか笑いたくなった。

「おまえさ・・・」

でも何と言っていいのか言葉が見つからない。

「何笑ってんだよ!?」

訳の分からない香藤はムッとする。

「いや別に・・・・サンキュー」

そう言って香藤から受け取った。



小野塚だって香藤以上に貰ったチョコがあるが・・・あれは全部実家と事務所に分けることにしている。

でもまあ、これは喰ってやるか・・・・小野塚はそう思い車のキーを回した。

たまにこういう気持ちの中に身を置いてみるのも悪くない。


心地よいエンジンの音の中

助手席に置いた小さな袋が微かに揺れた。




2006・2・14
日生 舞


・・・別に小野塚と香藤のCP話を書いた訳じゃないですよ?(笑)
岩城さんが出て無くてすみません・・・・;;;