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”月が明るいね・・・”
微笑みながら言うおまえの顔を見る。
”こんな夜に岩城さんとこうやって酒を酌み交わす・・・幸せだな〜”
その言葉に笑う。
”いいな・・・こういうのは・・・”
”ん・・・”
ふたりして月を見上げた。
たわいない話をする。
今日会った人のこと、出来事、テレビで見た番組のこと。
笑ったり、拗ねたり、熱くなったり・・・
ころころ変わる表情に自身の表情もつられる。
盃に月が映った。
”綺麗だね・・・・ほら”
微かに揺れるそれを見ながら香藤が俺のにも映してみて、と言う。
盃を傾け映し出せば
ゆらゆらと揺れる月が手の中に・・・。
”贅沢だよね・・・夜空と手の中に月があるなんて”
”そうだな”
短く答えて香藤の顔を見つめた。
それに気づいて香藤も顔を上げる。
触れたい・・・・そう思う。
そして触れてもらいたい・・・そう思う。
見つめ続けていると・・・香藤の瞳が少しだけ哀しく揺らぐ。
・・・・なんでそんな哀しそうな顔をするんだ?
いつものように微笑んでくれ。
いつもように笑って、馬鹿言って、俺を呆れさせてくれ。
いつものように・・・。
「京介・・・・」
姿の見えない彼を探して雅彦は和室の入り口に佇んだ。
杯を手に縁側に座り込んだその姿に言葉を止める。
盆の上には手のつけられていない杯があった。
”そうか・・・・”
小さく息を吐く。
あの時からもう幾度となく見た光景だった。
駄目になってしまうかと程の憔悴から外に出られるようになるまでの月日。
何も見ず
何も聞こえず
すべてのものを拒否するように呼吸をしていたあの日々。
時が止まったような目で窓から見える景色を見ていた姿。
いつまでも続くかと思われた哀しみの日々。
そして
何度目かの夏が終わろうとしたある日
何処か遠い目をした彼がいた。
「兄貴?」
気配に気づいたのか振り返ったその笑顔に戸惑う。
「・・・・ここにいたのか」
「ああ、月が綺麗なんで飲んでいたんだ、香藤と」
普通に出てくる名前に胸が痛んだ。
「そうか・・・」
それだけ答えた。
そう答えることだけで精一杯だった。
また月に目を戻した弟の後ろ姿を見つめた。
”お兄さんもどうです?”
声が聞こえたような気がした。
人懐っこい顔が見えた気がした。
澄み切った夜空が肌に染みいるような夜だった。
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