呼ぶ声




夢を見ている


そこは深い水の底



音もなく


色もない世界


ただ暗い闇だけが自身を包み込んで


そして


もっと深い闇の中へと引きずり込んで行くように眠りを誘う





何処からか流れてくる声


遠い昔聞いたような


懐かしい声


何だろう


大切な人・・・


その人から語られる言葉


思い そして・・・その表情・・・


思い出さなくてはならないものなのに・・・・


今の自分には何も残っていなくて・・・・









『・・・・さん』


俺は声を絞り出す


何もない


何も見えない


そんな中で唯一心に残っていた言葉


「・・・さん」


もう一度・・・・・呼んだ





かつて命をかけた


全身全霊で愛した人


その人の名前を


その名前を呼べば


きっとここから抜け出せる


そう願って・・・・・


出ない声を振り絞り・・・・呼び続けた





会いたい




ただそれだけの思いで・・・・


呼び続けた


会わなくてはいけない


そしてまたふたりで語り合い


愛し合うために


時を越えて


場所も越えて


思いはただそれだけ・・・・












「香籐・・・・」


声をかけられて・・・・目を開けた


「岩城さん・・・・」


ぼんやりと見上げる俺を、ふっと笑って岩城さんが顔を寄せてきた


「こんな所で寝て・・・風邪引くぞ」


「あ・・・」


ソファで帰りを待っている間に寝込んでしまったらしい


「どうした?」


そう言いながら俺の髪を優しく撫でてくれる


「うん・・・何でもない・・・なんか夢見てたみたいだから・・・・」


そう答えながらも頭の中がぼんやりしていた


深い深い水の・・・・


曖昧なイメージだけがそこにあった





「明日・・・といってももう後10分ぐらいだが・・・・休みが取れたから」


「え?」


少しだけ照れたように発せられた言葉に身体を起こす


「取れたの? 最近すごく忙しかったから無理だと思ってた」


「ああ、俺もだ。だけど清水さんがやりくりしてくれて・・・」


「そっか・・・・ありがと、岩城さん」


ニッコリと笑う


「お礼は清水さんに言わないとな」


岩城さんも笑った


そう言う間もずっと髪を触ってくれる


俺は目を細める


「ね、岩城さん・・・じゃあ、お祝い沢山貰っていい?」


「・・・・言うんじゃないかと思った」


「じゃあ・・・・いいの?」


「ダメだと言ってもやるだろ、お前は」


「どうしても岩城さんがいやなら・・・・・我慢する」


冗談だけど少し拗ねたように言うと


「・・・・・こんな日に俺がそんなことをするわけないだろう・・・・」


と、言ってくれて・・・・


「えへへ」


と、笑ったら額を指で弾かれた



返ってくる言葉はもう分かっていたけど


こんな風に甘やかされるのは好きだ


奏でられる心地よい言葉


大好きな人からの言葉


俺だけのもの







「会えてよかった・・・・」


「ん? 何か言ったか?」


バスルームに向かう岩城さんの背中を見つめていたら


ふとそんなことを口にした


自分でも何でそんなことを言うのか分からない


でも今心に浮かんだんだ・・・・


何故だろう


何かを思い出そうとしても何も思い浮かばなくて


「???」


1人で首を傾げてしまう


「おかしな奴だな」


呆れるように言われ手をとられた


・・・ま、いいや・・・


考えても分からないことは考えない


こんなに積極的な岩城さんを前にうだうだ考えるなんて勿体ない




「いーわきさん」


その腕にしがみつく


「こら、急に飛びついたら危ないだろう!」


ちょっと怒られたけど平気


怒鳴られても平気


これから丸一日甘やかしてくれるだろう恋人の愛に


どっぷり頭まで浸かるのだから


「ありがとう・・・」


もう一度小さく言うと


「ああ」


小さく岩城さんも答えてくれた



素敵な誕生日は今始まるんだ




















『会えてよかった・・・・・・・・』


呼び続けた声は


今届いたね




























2004・6
日生 舞


6月9日お誕生日おめでとう・・・香藤君・・・・・・