Water



「・・・・香藤?」
ふと喉の渇きを覚えて目が覚めた岩城は窓際に立っている香藤に声を掛けた。
その声でバスローブが揺れる。
「あ、岩城さん、ごめん、起こしちゃった?」
苦笑しながらベッドの端に座った。
「いや」
喉が渇いたから・・・と言い、寝ころんだまま、香藤のいる方へと身体をすり寄せる。
香藤はそんな岩城の肩にそっとブランケットを引き上げた。
「眠れないのか?」
少し心配になって岩城が見上げると、香藤は軽く首を振り窓の方を向いた。
「ほら・・・明るいでしょ、今日満月だよ」
「満月・・・」
言葉に促されて少し身体を起こすと、開いたカーテンから丸く明るい月が見える。
「庭の木々の影がとても濃くて・・・それだけ光が強いんだね」
「そうだな」
「でも眩しくなくて・・・そんな所、いいな」
そう言う香藤に微笑んだ。
そしてふたりでしばしその光を見つめた。
太陽とは違う柔らかなその光に心が和むような・・・それでいてどこか荘厳な光・・・。

「あ、水」
香藤がサイドテーブルに手を伸ばす。
「今取って来たんだ、俺も喉が渇いてたから」
そう言って栓を開けた。
「・・・ねえ、岩城さん」
「ん?」
「ベッドの中で水を飲むって・・・思い出すよね」
少し笑って香藤が岩城を見つめる。
一瞬きょとんとした岩城も、それを思いだしふっと笑った。


そう・・・あれはまだこの家に越してくる前
岩城のマンションでオフの日、朝から晩まで一日中香藤とベッドの上で過ごした。
あの濃厚な時間・・・
時間を忘れて・・・
そしてその当時囚われていた色んな感情をも忘れて
二匹の獣になった時間・・・
忘れることなんか出来ない
岩城の身体に香藤を深く深く刻み込まれた日だったから・・・


「なんか・・・昨日のことのように思えるけど」
香藤は岩城の前髪にキスをする。
「でも・・・随分前の事なんだよね」
そう言って目元にもキスをした。
「・・・そうだな」
香藤のやわらかいくちびるの感触を目を瞑りながら味わう。
「あの時みたいに・・・・飲ませてもいい?」
岩城は耳元で囁かれた。
かかる息に少し首をすくめる。
目を開けると、水を飲む香藤の仕草が見えて・・・
岩城の顔にそっと近づいてきた。

そっと香藤の首に腕をまわす。
やがて冷たく・・・そして熱い水が喉を通り抜けていった。

「・・・岩城さん」
名前を呼ばれて身体を受け止める。
触れられたそこは、まだ奥が濡れたままだった。


月の光にシーツの海が照らされ
身体が海に沈む・・・
深く 深く 深く まるで海の底にふたりで落ちていくような感覚------


ゆっくりと目を開けた岩城の視界に揺れる香藤の髪と満月があった・・・・・・・・




満月の夜を春抱きで書いてみたかったのでv
2006・9・11
日生 舞