| エプロンはお好き? 「えっと・・・・何? これ・・・・」 「何って見たとおりだけど?」 佐和がにっこり笑った。 「え・・・でも」 「ちょうど仕事で知り合った子がこういうの扱っているお店に勤めていて・・・」 佐和はそれを箱から出して広げる。 香藤の顔がこわばった。 「可愛いから買っちゃった!」 「買っちゃったって・・・」 「ほら、ここ見て! このレース可愛いでしょうv こういうの好きなのよ!」 「・・・はあ・・・」 「安くしてくれたのよ〜生地が良いからね、高いの、こういうのは!お買い得よ!」 「はあ」 「ブルーも良いかなとか思ったんだけど、やっぱり定番、白にしたわ!」 「いや、青でも白でも・・・」 この際色は関係ない。 「香藤くん似合うわよ? 着て見せて?」 「佐和さん・・・あのお」 「あ、お金は良いわ、これはプレゼントv」 「・・・だから佐和さん、なんでこれ・・・」 「あら?気に入らないの?」 「・・・気に入るもなんも・・・これ女性用の・・・」 そっと手に取る・・・確かに生地は良いらしい・・・ってそんなこともどうでもいい! 香藤は顔の高さにそれを掲げる。 眩しいほどの白が目に痛い、この幅の広い紐は後ろで結べば大きなリボンのようになるのだろう。 「何でこれ・・・・」 あら?何か変?と首を傾げる佐和に香藤は脱力してしまう。 「・・・確かに俺、エプロンの話したけど・・・でもこれは・・・ちょっと違うんじゃ・・・」 香藤が想像していたのはメンズものだ。色は黒。 少し前に、料理の話になった時に、専用のエプロンを持っていても良いかなと佐和に話したのは覚えている。 どちらがと決めているわけではないが家で料理を作るときは香藤の方が多い。 レパートリーも増えてきたら、なんとなく今度は格好もそれらしくしてみたいな・・・とかなんとか雑談のように話したことはあった・・・。 話はした、したが・・・まさかこんな物を買ってくるとは思いもしなかった。 「あれも男の色気でいいけれど・・・ああいうのはどっちかっていうと岩城くんの方が似合わない?」 「岩城さんは何でも似合います・・・・って、だからって俺はこれっていうのは・・・」 その発想おかしいと思う。 「いいじゃない、別に。それ着て料理作ってやりなさいよ、立派な妻じゃない? 岩城くん喜ぶわよ?」 「いや、喜ばないと思う・・・つうか、これレース多すぎだよ、ふりふり・・・」 胸当ての両側も裾も見事なほどのレースの波。 そりゃもうたっぷりと布を使っている。 「だって可愛いんだもの!」 だからそれは佐和さんの趣味だって!・・・って言い返す気力もない。 「とにかくこれはちょっと・・・」 ため息混じりに首を振る。 「あら、本当にこれはプレゼントよv 私は自分用にもいっぱい買ったし」 「いや、だから」 それは・・・ってもう言いたくない。 「困ったわね・・・・・じゃあ、どーしても着ないなら、妹さんにでもどうぞ」 そんなに嫌がるなんて不思議でたまらないと言うような口調だ。 「洋子? あ・・・そうか」 こういうの着るかな?と一瞬思うが、自分が持っているよりかは明らかに相応しい。 「でもねえ、似合うと思うわよ〜香藤くん」 にこっと笑った顔に、ははは・・・と乾いた笑いを返す。 佐和の行動にはいつも驚かせられる。 妹に・・・ということでもう片づいたと思ったのか、今度は自分のをきゃっきゃっ言いながら香藤に次々と見せていった。 小1一時間後、待ち合わせがあるという佐和を玄関で見送った。 リビングに戻ってくるとテーブルの上に広げられたエプロンが目に入る。 「俺が似合うわけないじゃん・・・」 ため息と共にそれを手に取った。 せめてデザインぐらい普通なものを選んで欲しかった・・・。 それならなんとかなるものを・・・・。 でも手触りいいな・・・。 たっぷり布をとってあるためか男の自分が着ても大丈夫そうではある。 「・・・・」 ふといけない考えが湧く。 でも・・・・もし・・・・これを岩城さんが着たら・・・・ぽわわわんと頭にその姿が浮かぶ。 ・・・・に、似合うかも知れない・・・・ 知らずに口元が緩む。 裸に・・・っていうのも世の中にはありはする・・・それも良いかも知れない・・・ 男である以上、愛しい人にやって貰いたいそれ。 憧れ・・・・ 岩城がそれを着て・・・・なんて妄想が止まらない・・・・。 鼻血が出そうだ。 「・・・・・・・・でもなあ、絶対着て貰えないよね」 現実を思い出す。 こういうのを自分以上に岩城が嫌がるだろうことも分かっている。 似合う似合わないとは別問題だ。 ・・・・無理無理・・・止め止め、さ、しまわなくっちゃ! エプロンを箱に戻そうとした、その時・・・・・ 『・・・・香藤くん、似合うって!・・・・』 佐和の言葉がふと頭をよぎる。 何となく広げたそれを身体にあてた。 長さはちょっと短いか・・・・ ・・・・いやあ、なんか間違った世界に足を踏み入れそうだな・・・・ 苦笑して自分を見下ろす。 AV男優をしていたからカメラの前で裸になることはあっても女装をしたことはない。 別にそんな趣味もない。 でもちょっと着てみようか・・・な・・・・ 少しだけ誘惑に駆られる。誰もいないし、着て鏡で見てみて、すぐ脱げばいい。 ・・・よおし・・・じゃあ少しだけ・・・・・ 数分考えて、香藤はそれを身につけはじめた。 「いいんですか、お邪魔して」 鍵を開ける岩城にもう一度小野塚は確認した。 「時間があるならどうぞ。あいつも時間持てあましているだろうし夕飯でも一緒に」 今度始まるドラマに共演する岩城と小野塚は連れだって帰ってきていた。 「そりゃあ、岩城さんのお誘いなら時間ならいくらでも・・・って、手土産がないのはまずいかも、あ、お邪魔します」 「別に構わないよ」 靴を脱ぎながら岩城が微笑む。 「何か作るって言っていたから、是非一緒に」 「でも香藤にすごく文句言われそうだ・・・そんなの常識だぞ!・・・・って、どうしたんですか?」 岩城の後について廊下を歩きリビングに入ろうとした小野塚は入り口で止まった岩城にぶつかりそうになった。 「・・・岩城さん?」 肩越しにひょいと顔を覗かせると・・・流石の小野塚も目を見張る。 ごそごそと動く白いもの・・・・ ソファの側で、こちらに背を向けて香藤が一生懸命エプロンの紐を結んでいた。 「あれ? あれれ? 上手くいかないなあ・・・」 「・・・・香藤」 ようやく声をかける気になったのか岩城が声を出す。 「え?・・・え? うわ、わわわ、岩城さん!? かけられた言葉に振り向いた香藤の顔が驚きに変わる。 「・・・何やってるんだ・・・おまえ」 「え? いや、あのね・・・うわ、小野塚まで!」 「よ、奥さん、お邪魔さま・・・って、ぶっ!」 小野塚が吹き出しながら手を上げる。 「な、何だよ!なんでここにいる?!」 「夕食に誘ったんだ・・・・そんなことより香藤!なんだその格好!」 ぎゃははは、と小野塚が笑い続ける。 「最高!」 「う、煩い! あ、あのね、これ佐和さんが」 「・・・佐和さんに頼んだのか」 はああ・・・・と額に手をあてて、頭を振る岩城。 「え?違う違う!あのね、これは」 その間も小野塚はひーひー笑う。 「似合うじゃん香藤v 新婚さんだね〜」 「小野塚、てめえ〜煩いんだよ! で、岩城さん、あのね、佐和さんが勝手に・・・」 「白って言うのが泣かせるな〜後のリボン結んでやろうか?」 笑いすぎて出た涙を手で拭いながら、まだ小野塚は笑い転げる。 「煩いって言ってんだろう! 岩城さ〜ん、信じてよ、俺の趣味じゃないって!」 「ならいつまで着てるんだ・・・」 「あ! って小野塚いつまで笑ってんだよ!」 「おかしい〜! ホント笑わせてくれる」 「小野塚! あ、岩城さん!!何処行くの?」 すたすたと階段の方に向かう岩城に香藤が慌てる。 「・・・・ちょっと部屋で休んでいいか?」 どっと疲れた岩城が呆れたように呟く。 「あ、脱ぐ、脱ぐから! 夕飯の下準備できてんだよ? あと少しで出来るし!」 本当に奥さん・・・と、まだ小野塚が笑う。 「小野塚〜!!!」 「ああ、おかしい〜」 「岩城さん、ホントだって! エプロンが欲しいなとか言ったらさ、佐和さんが持ってきたんだって!」 「・・・・・・」 「岩城さ〜ん」 岩城は横で笑っている小野塚を見て、そして目の前の香藤を見る。 事情は大体予測が付くが、フリフリのエプロンをつけた香藤が言っても説得力ゼロである。 「・・・・・分かった、分かったから・・・・」 とにかく、着替えよう、それが一番だ・・・・。 「着替えてくるから・・・」 縋り付くような香藤の顔をもう一度見て、そう言い残しリビングを出た。 後ろからは相変わらず笑いの止まらない小野塚を怒鳴り散らす香藤の声が聞こえた。 これでしばらくは小野塚のからかいのネタになる事は間違いない。 ・・・やれやれ・・・・ 階段を上りながら岩城は苦笑した。 これから始まる夕食もさぞかし賑やかなものになるだろう。 疲れがどっと増えたような気もするが、その反面、小野塚がいてくれて良かったような気がする。 家にいることが多い今の香藤の状況はストレスを溜めやすい。 自分が気を遣うと香藤は敏感にそれを察知するが、小野塚なら友人のノリでぽんぽんと香藤を突っついてくれることだろう。 でもな・・・ あれには驚いた。 一瞬マジで香藤がその方面の趣味を持ったのかと思ってしまった。 呆れながらも、結構似合っていた香藤のエプロン姿を岩城は思い返す。 「・・・・・可愛いもんだな」 そう呟いて、岩城は自室の扉を開けた。 「笑いすぎなんだよ!」 「いや〜もうダメ、おまえ見たらあの姿が・・・あはははは」 「小野塚−−−−−−−!!!!」 香藤の叫び声が止まらない、とてもとても賑やかな夕食だった。 2004・10 舞 |
読まれると分かるでしょうが・・・
内容の時間軸自体は少し前の香藤くんの状態です
実際は鬱屈するものが日々あったとは思いますが
こんな感じで明るい日があってもいいかなあ〜と願いもこめて書いた物です
とか真面目なことを言っていますが・・・
フリル系は岩城さんよりも香藤くんに似合うよなあ
と思ったことは内緒です(笑)