嵐を呼ぶカード

「都筑さん ちょっと来なさい」
珍しく机に向かっている都筑の後ろで声がした。
その抑揚のない声で都筑ばかりでなく、正面の密も斜め後ろにいた亘理も顔を上げた。
周囲も何となく見た・・・そして都筑以外がみな息をのんだ。
「ん? 何?」
一人だけその空気に気がつかないのか、のんびりと都筑が答える。
「良いからちょっと来なさい」
「俺、仕事しているんだけど・・・いいの?」
なんだよ〜と言いつつ、都筑が席を立つ。

・・・気がつかないのか!・・・
皆の心の声。
このどす黒い怒りのオーラーを放ちまくっている秘書殿の雰囲気に、どうやれば鈍感になれるのか、出来ることなら教えて貰いたいぐらいだ。

「それはそれとして、少しお話があります」
そう言って、巽は部屋に戻ろうとする。
ついてこいと言うことなのだろう、都筑は広げていたファイルを閉じると密にウィンクをする。
「おやつだったら密も呼ぶね!」

・・・呼ばんでいい!即座に答える・・・心の中で・・・
・・・俺を巻きこむんじゃねえ!!・・・
そして亘理を見ると、だめだこりゃ、という感じで肩をすくめている。
ま、関わり合いにならなければ平穏だろう、そう思い直し、再びペンを取る。
ひそひそと聞こえていた話し声は、部屋に入る前にざっと見渡した巽の視線で黙り込んだ。
「お邪魔しまーーす」
一人だけ全然空気の読めない男が中に入って行った。



「なんやあれ? またなんかあったんか?」
「なくてあれならとんでもないすよ」
「・・・そやな、ま、これを使えばいいだけやし」
と、自分の机の引き出しを開けイヤホンのようなものを取り出す。
「亘理さん・・・まさかそれ」
「おう、坊も聞くか? 改良してかなり良くなったんやけど」
「・・・・亘理さん・・・」
先日も何かがばれて、どこぞに飛ばされて帰ってきたばかりだというのに、どうしてこうも懲りないのだろう・・・。
「俺はやめときます」
「そうか? 面白いと思うけど」
そう言って耳に差し込む。
「おお、聞こえる・・・」
その様子を見ていた密はぼそっと呟いた。
「結果は聞かせてください」
「坊・・・それって・・・」
何とも言えない目をする亘理を尻目に書類へと目を落とした。






「何々?何か美味しいもの作ったの?」
「・・・食べることしかないんですか、いいからそこへお座りなさい」
ソファを指さし、巽が机の上に置いてある物を取りあげた。
「・・・」
巽が都筑の前へ封筒を無言で差し出す。
「何?」
反射的に受け取って・・・それは薄い青に白の薔薇の地模様が入っている手触りの良い紙だった・・・表書きに自分の名前が書いてあるのを見た。
「俺?」
”都筑麻斗様”と書かれた封筒をひっくり返すとそこにはなにやら英字が書かれていて・・・
「誰から?」
「誰からって・・・書いてあるでしょう!?」
「え・・・読めないんだけど」
筆記体で書かれたその文字は流れるように記されてあり、そう言うのになれていない都筑は首を傾げる。
「・・・ま、いいでしょう、中を読めば分かりますよ、嫌でもね」
「ふ〜ん・・・・って、あ!巽!!中読んだの!!?」
「読んでませんよ、失礼な。まあ、それに関しては検閲してもいいとは思いますが・・・」
これです、ともう一通、同じ物を都筑に見せる、しかし見るのも嫌なのか、早々と机の上に戻す。
「あれ?巽にも来たんだ?」
「ええ」
「そっか・・・じゃ・・・」
都筑は封をそっと剥がし、手紙を開いた・・・


■■■

”親愛なる都筑さんへ”

お誕生日おめでとうございます

もうお幾つになられたのかはあえて言いませんが

幾つになってもあなたは私の天使です

つきましてはお祝いお食事をと思っています

美味しい料理を用意して待っていますから

どうぞあなたの”たっちー”とご一緒にどうぞ

場所は同封の紙に書いてあります



先日は楽しいひとときをありがとうございます

またあんな時間がとれるといいですね

楽しみにしています


邑輝一貴


■■■


「わー食事の招待だ!」
「都筑さん・・・反応するのはそこですか!」
「え? 違うの? 巽も同じ文面だろ?」
「食事の招待ってところはね。後は違いますよ!あいつに私の天使とか言われた日には虫酸が走りますよ!」
「ああ、ここはちょっとねえ〜」
「って、だから都筑さん、他にあるでしょう、他に!」
「へ?」
何のことか分からない都筑は目を丸くする。
「何が?」
その様子に苛々した巽が手紙を取りあげた。
「ここですよ、ここ!”たっちー”ってなんですか”たっちー”って!!」
そう言った瞬間、隣の部屋から誰かが吹き出す声が聞こえたが、今はそれに構ってられなかった。
「ああ、それね、巽のこと」
至極当然のように都筑が答える。
「それは文面から分かりますよ!だからなんでこんな呼ばれ方をされなくっちゃいけないんですか!!!」
ばんと手紙をテーブルに叩きつけた。
「どうしてって・・・そんな話をしたし・・・」
「いつ?・・・ああ、そうそうもう一つあります!ここにある先日って何ですか先日って!いつ会ったんです、何をしたんですか!?」
「まあまあ落ち着いてよ」
「都筑さん、アンタねえ!!」
「分かったから・・・えっとねえ、まずその呼び方なんだけどね」
叩きつけられた手紙を丁寧に折って封筒にしまう。
「俺がさあ、この頃一部で”つっきー”って呼ばれているの知ってる?」
「・・・・知りませんよ」
「若葉ちゃんがね、最近入ってきた若い子の間で俺がそう呼ばれているって教えてくれて」
「・・・・参考までに聞きますが、これと同じくひらがな表記なんですか」
「らしいよ? ひらがなの方が可愛いとか何とか」
「ああそうですか・・・」
脱力である。
「それで、私のこともそう呼ばれていると・・・」

そう言えば最近、見目の良いがどうにも頭の方が軽いのではないかと思われる職員が増えたように思われる。
あの方の趣味かどうなのかは知らないが、あまりにもレベルの低さに目を覆うこともしばしばで・・・今度一度課長に言っておかなくてはいけないと巽は思った。

「ううん、巽のは違う」
「違う?」
「だからね、まだ話が続いてるんだって・・・で、そういうことが最近あるんだってあいつに話したらさ・・・」
「ちょっと待ってください、都筑さん! だからいつ会ったんですか!?」
「え?・・・1週間ぐらい前? バレンタインの後ぐらい・・・」
「何も聞いてませんよ!」
「巽、出張中だったじゃん、俺も仕事で出てたし・・・で、単独行動をしてた時に会って・・・上手く交わそうとしたんだけど、バレンタインの時にチョコが貰えなかったの何のって煩くってさ・・・食事だけでも付き合ってください!って言われてね、つい・・・」
「つい食事につられたと? バカですか、アンタは」
「バカって・・・ちゃんと帰ってきたからいいじゃん!」
「当たり前です、帰ってきたことを威張るんじゃないですよ、まったく! で、何もなかったんでしょうね?!」
「何がだよ」
「あんな変態と一緒なんですよ!何って言えば何でしょう!?」
「巽・・・大丈夫だって!仕事中って言って、1時間ぐらい食事しただけだからさ」
「・・・・」
巽は黙って都筑を見つめた・・・嘘は言ってないようだ。
「・・・ま、そういうことで良いでしょう・・・で、それがどうしてこの呼び名に繋がるんですか?」
「え・・・ああ、話の腰を折るから何の話をしているか忘れちゃってたよ・・・・あのね、だから・・・そんなことを話していた訳、邑輝にさ、世間話として」
「随分くだけた話をするんですね」
「なんだよ〜こんな話でもないと、あいつと話していたら変な方向に行くじゃん!」
「分かってるなら会わなければいいでしょう!?・・・・って、ああ、すいません、お話をどうぞ・・・」
またもや話がずれそうな予感がして慌てて元に戻す。
「もう、巽ったらせっかちだね、でね・・・そんなことを言っていたら、あいつがさ・・・『じゃあ、秘書殿は”たっちー”になりますね』って言ったんだよ、でね、『なんかこの呼び方だとなんか、いやらしいですね』って、それで・・・巽?」
ふふふ、と笑う声が聞こえて巽を見る。
「言ったんですか?あいつが」
「う、うん・・・・その時のことをふまえての話だと思うけど」
「そうですか、そうですか」
「た、巽?」
「まあ、よくもそんなことを言えたもんですね」
「えっと・・・ほら、言葉あそびみたいなものだからさ・・・・って、ねえ」
「いいえ売られた喧嘩は買いますよ、ええ買わせていただきます!」
「・・・売ってるのかな」
こっそり呟いた都筑の言葉は届いてないらしい。
そしてもう一度招待状を見る。
「分かりました、行きましょう、ええ、行かせて貰いますよ!もとよりあなた一人で行かせるつもりもありませんでしたけどね!」
「行くのは良いけど・・・争い事はね・・・迷惑になるからさ・・・」
「争う?誰と誰が?」
・・・おまえとあいつが・・・
と都筑は心で答える。
「あんなのと同レベルにしないでください。なにが”たっちー”ですか!自分だって”むっちー”じゃないですか!」
「・・・えっと・・・巽?」
ああ、もうある種自分の世界に入ちゃってるよ・・・と都筑は溜息をつく。
なんかこんな感じでいつも物事が空回りするような気がする。
巽が言うほどに、邑輝とふたりでいて危険を感じないし、いつも本当に言葉の上での軽い遊びのようだと都筑は感じていた。
それに自分だってそんなにお手軽じゃない、それは巽だってよく分かっているのだろうに・・・。

・・・ま、似たもの同士?・・・
言えば、ますます火に油を注ぐようなので、絶対言わないが、時々感じていることだった。



「都筑さん!」
「はいっ!」
と、急に呼ばれ返事をしてしまう。
「これ、今夜ですね?」
24日の平日でなく、あえてずらして金曜日の夜にしているところがいやらしいと、巽は思う。
「うん、今日だね・・・で、行くの?巽も」
「当然です!」
「あ、そう・・・」
また電撃飛び交うような、針で刺すような言葉のやりとりが続く空間になるんだろうか・・・両方とも頭は回るので、正直始まり出すと都筑自身は蚊帳の外になる。
「ま、その分、食べることに集中出来るんだけどね・・・」
「何か言いましたか?」
「いえ、何も・・・」
今日行くお店に手を合わせる。
「無事に俺のお祝いが終わりますように・・・・」
既に横で火花を散らしている巽を見ながら、都筑はこっそり息を吐いた。




翌日から、”つっきー”と同様”たっちー”という言葉も密かに庁内で出回ることになるのはお約束・・・・・。

そしてこの晩、ある高級レストランでは満席だったテーブルが1つを残して客が早々と引き上げてしまったという話もあったとかなかったとか・・・。




「亘理さん・・・また姿が見えなくなったな」
密はコーヒーを啜りながら春も近い空を見上げた。


2005・2・25
日生 舞



・・・・・誕生日SSになってないような気がする・・・
っていうか、この擦れた感じの都筑さんはどうよ?って
自分に突っ込み・・・
邑巽ではないですよ?
巽都で邑都なんです、ええ、そうなんです(笑)
都筑さんの誕生日は基本的にシリアスムードだとは思うんですが・・
時々こういうおバカな誕生日話も書いてみたくなりますv
読み流してください・・・・涙