灯
| ・・・失敗した・・・と巽は思った。 言い訳をさせて貰えば・・・年末の仕事に追われていたこと この忙しい時期に限って、上司である課長が腰痛を起こして、その仕事まで一気に回ってきたこと そして、今朝あった他の課との小競り合いも何かしら影響していたのかも知れない・・・・ そのほとんどの原因がたとえ彼のせいだったとしても。 それにしても、これは・・・・ 巽は絶望にも似た思いで目の前の光景を見ていた。 植物園いっぱいに広がるロウソクの灯を・・・・・・ 「あの・・・」 しばらくして声をかける。 少しだけ前を歩く都筑に声をかける。 入園してからずっと彼は少し前を歩き、そして巽は遅れて歩く。 振り返った表情がよく見えない・・・でも見えない方が今はいいのかもしれない。 「ん?何?」 声は・・・・明るい。 「すみません・・・」 「・・・・え?」 都筑が身体の向きを変える。 「なんで謝っているの?」 「ええ・・・その・・・」 沈黙。 「巽?」 「・・・・すみません、植物園がライトアップと聞いたのですが・・・まさかこんな感じだとは気付かずに・・・」 「こんなって?」 そう言って都筑は回廊から見える植物園を見渡す。 園内は淡い光に包まれて幻想的だ。 クリスマスの夜にふさわしい光景。 「・・・・もしかして、このローソクのこと?」 「はい」 巽は頷いた。 命の灯を表すあのロウソクが溢れる館・・・・ よく出入りをしているとはいえ、都筑はあのロウソクの群は得意ではないはずだ・・・勿論自分も。 命が消える瞬間に何度も立ち会ってきた自分たちにとってはあまりにも、きつすぎる灯だった。 だから此処を見た時に巽は思ったのだ・・・・失敗したと・・・・。 「えっと・・・あのね・・・俺、大丈夫だよ」 「・・・・え?」 「ごめん・・・・入ってから黙っていたから・・・・誤解させたんだと思うんだけど、俺は大丈夫だよ」 「都筑さん」 「あそこのロウソクは・・・何度見ても、そして何年経っても慣れるものではないけど、ここのはアレとは違うし・・・・ 勿論似た感じの風景ではあるけど、なんだろう上手く言えないけれど、暖かい・・・って感じがする」 「・・・・・」 「だから・・・・大丈夫。黙っていたのは、あんまりにも綺麗で見とれてしまって・・・・ごめん、余計な気を遣わせてしまって」 都筑が少し近づいてくる。 「いえ・・・私の方こそ余計なことを考えすぎたのかも知れません」 小さくため息をつく。 長い時を重ねても 互いの心があの頃よりも近づいていても、いつも自分の中のあの時代の都筑は消えない。 そしてそれに時として捕らわれてしまう自分も変えられない・・・。 「巽・・・・ありがと」 「都筑さん」 「いつも俺の心配してくれて」 巽の正面に立つ。 顔を上げるとそこには淡い光に照らされた都筑の微笑みがあった。 「入った時、ちょっとビックリしたのは本当だけど・・・・でも巽と一緒だしね」 そして巽の手を取った。 「今はこの手があるから・・・・それを信じられる自分がいるから・・・だから大丈夫」 巽は都筑の顔を見つめた。 「・・・・ありがとうございます」 握られた手を握りかえす。 「お礼を言うのは俺の方だって」 少し照れたように笑う。 「こんな素敵なところに連れてきて貰って・・・・連休続いていたからさ、もしかしたらちょっと集まって パーティーかな〜とかは思っていたんだけど」 「そういう風にしようかと思ってはいたんですけどね・・・・ちょっと忙しすぎて準備が整わなかったんですよ」 「あ・・・・・それって、もしかして・・・・俺?」 「ですね」 「あ〜・・・・ごめん」 ・・・別に今に始まったことではない・・・ 「もういいですよ・・・・年末の休みがないだけですから」 「え、そんな・・・・たつみぃ〜」 その声に巽が少し笑う。 それにつられて都筑も少し笑う。 そうこれが積み上げてきたもの・・・・少しだけ変わった、あの頃無かったもの。 そして繋いだ手もあの時にはなかった。 「・・・行きましょうか」 手を繋いだまま歩き出す。 回廊は揺らぐ灯の光で覆われている。 「うん!」 光に照らされるポインセチア 揺れるシクラメンの影 そしてバラの香り・・・・ ふたりはその間を歩いていく。 静かなクリスマス・・・・こんな夜もたまにはいいかも知れない・・・・そんなことを互いに思いながら。 2007・12 舞 |
※クリスマスでのライトアップ、ある植物園ではクリスマスにロウソクの灯りで・・・
というのを聞いて書いてみました
私の書く巽はこんな風に結構後ろ向きだったなあ・・・と思い出した次第です(苦笑)
雰囲気が伝わっていればいいなあv