「香り」



ポシュポシュ・・・・

聞き慣れない音が城の庭から響いていた

「・・・なんだお嬢ちゃんだったのか・・・」

庭にいるグレタ嬢ちゃんに顔を向けたまま近づいてきた俺の声にコンラッドは顔を上げた

「城に入るなり何処からか音がすると思っていたら・・・で、あれはなんだ?」

彼と同じように階段に座り込む

「・・・水風船だそうだ」

「水風船?」

「陛下の国で祭りの時とかに売り出される物らしい。以前グレタに話していて欲しがっていたんだが
、ようやくアニシナに作ってもらったようだ」

そう言ってコンラッドは自分の手にもある水風船とやらを見せた

青く綺麗な透明のそれが揺れる

「ふ〜ん・・・水風船ね」

伸び縮みするものに水を入れている物らしい

あの訳の分からないものばかり作っているアニシナちゃんにしては、なんとも素朴な物を作った物だと
感心する

嬢ちゃんはボールをつくように風船を手から離しては軽く引き寄せていた

側にいるお付きの女性達に何か言っては笑っている

大きな音ではないが今日は兵も出払っているのか、城内は静かだった

「グウェンに何か用事だったのだろう?」

ぼんやりと庭を眺めていると問われた

「ん? ああ、新しい任務が・・・って話だったんだけど部屋に行ったらいないし・・・」

「グウェンならヴォルフと一緒にちょっとした用事で出たぞ、すぐ戻るだろうけど」

・・・ああ、それで静かなんだ・・・・納得してしまう

「ま、良いんだけどね、急ぎごとじゃないならね」

ここのところ何事もなく平和だ

以前のように国境がどうとか、あっちの国こっちの国の偵察というような任務は極端に減ったように思う

それは新しい魔王のおかげでもあった

「・・・・平和なら、それが一番だな」

そう呟くと

「そうだな・・・」

そう短くコンラッドが答えた

そして・・・その時何となく気付いてしまった・・・彼が手の中の水風船を見つめては何度も優しく
撫でていることを・・・・

もしかしてそれはあの嬢ちゃんのとは違って・・・と思う頭の中にあの快活な坊ちゃんの顔が浮かんだ

唐突にあちらの世界に行かれてどれくらいだろう・・・・

俺の勘ではそろそろ戻ってきそうな気がする

「コンラッド」

「なんだ?」

「・・・いや・・・何でもない」

それはあの方が持ってきた物だろう?と聞きかけてやめた、それは野暮というものだ



向こうとこちらでは時間の流れが違うと言う

あの方が笑って過ごす1日とコンラッドがあの方を思って過ごす時間が重ならない

・・・それはとても切ないな・・・

そしてもう1人の双黒のお方を思い描く

貴方も今笑っているのだろうか

目を瞑って空気を吸い込む

微かにあのふたりの匂いがした

それは自分達に染みついたものかもしれない



「コンラッドー!!! あ、ヨザックも!」

嬢ちゃんが俺にも気づき手を振る

「こんちは〜」

俺も手を振り返した

コンラッドも微笑んでいる


平和な、穏やかな時間・・・後はあのふたりの顔さえあれば・・・・


残暑お見舞い申し上げます
2006・8・29
日生 舞